ハンセン病問題の正しい理解に向けて~新型コロナウイルスで同じ過ちを繰り返さない~

更新日:2022年03月23日

ハンセン病について

 ハンセン病は、らい菌の感染によっておこる感染症ですが、人から人に感染することは極めてまれで、感染しても発病する人は非常に少ないと言われています。治療法が確立された現在では完治する病気です。治療薬がない時代には、外貌の変形や身体障がいのため、人々はこの病気を特別な病気として恐怖し、差別してきました。1940年代に有効な治療薬が開発されてからは、感染予防目的の隔離は必要なくなり、1960年代に日本を除く世界では隔離政策が放棄されました。しかし日本では、1996年にらい予防法が廃止されるまで隔離政策が続き、患者、回復者の人権が著しく侵害されるとともに、その家族の方々も偏見や差別にさらされてきました。

ハンセン病患者の受けてきた被害

 国による強制的な隔離政策のもと、かつては多くのハンセン病患者が自宅から無理やり連れ出され、家族から引き離されて療養所に入所させられました。療養所では退所も外出も許可されず、療養所での作業を強いられたり、「懲戒検束(ちょうかいけんそく)」と呼ばれる裁判を経ない収監罰(しゅうかんばつ)を与えられたり、結婚の条件に断種や堕胎を強いる等の人権侵害が行われた時代がありました。

ハンセン病患者の家族が受けてきた被害

 ハンセン病の患者本人だけでなく、その家族たちも周囲からの厳しい差別を受けました。当時、患者の強制的な入所や住んでいた家の消毒などが行われたことで、周囲の人々は恐怖心を植え付けられ、患者とその家族への差別意識を生んだと考えられます。家族は近所づきあいから疎外され、結婚や就職を拒まれたり、引越しを余儀なくされたりすることも少なくありませんでした。

「無らい県運動」

 らい予防法に基づいて、患者を強制的に療養所に入所させてきたのは、奈良県を含めた都道府県であり、患者の情報を提供したのは、市町村や地域住民でした。このように国、地方自治体、住民が一体となって自分たちの故郷からハンセン病患者を療養所に送り込む、いわゆる「無らい県運動」を展開し、患者やその家族に多くの苦痛と苦難を強いてきました。

ハンセン病を巡る主な経緯
  • 1873年(明治6年) ノルウェーのハンセンが、らい菌を発見
  • 1907年(明治40年) 法律「癩(らい)予防に関する件」公布
  • 1930年(昭和5年) 初の国立療養所「長島愛生園」(岡山県)が開園
  • 1931年(昭和6年) 「癩(らい)予防法」(旧法)制定により強制隔離が本格化
  • 1936年(昭和11年) 「無らい県運動」が全国で活発化
  • 1943年(昭和18年) アメリカで特効薬「プロミン」の有効性発表
  • 1953年(昭和28年) 「らい予防法」(新法)制定。隔離政策が維持される。
  • 1996年(平成8年) 「らい予防法」が廃止される。
  • 2001年(平成13年)6月 元患者に補償金を支給する「ハンセン病補償法」(ハンセン病療養所入所者等に対する補償金の支給等に関する法律)施行。
  • 2009年(平成21年)4月 元患者等の名誉回復や療養・生活の保障、療養所の地域開放などを定めた「ハンセン病問題基本法」(ハンセン病問題の解決の促進に関する法律)施行。
  • 2019年(令和元年)11月 「ハンセン病家族補償法」(ハンセン病元患者家族に対する補償金の支給等に関する法律)成立。

同じ過ちを繰り返さないために

 らい予防法が廃止され、隔離政策が終わったものの、差別と偏見が根強く残り、ハンセン病患者(回復者)と家族を苦しめています。

 2019年6月、ハンセン病患者に対する誤った隔離政策によって差別を受け、家族の離散などを強いられたとして、元患者の家族が国に損害賠償と謝罪を求めた集団訴訟において、熊本地裁は国の責任を認め賠償を命じる判決を出しました。判決では、「国の隔離政策によって家族が偏見差別を受ける社会構造を形成し、差別被害を発生させた」と指摘しています。患者は療養所に収容され隔離政策終了後も家族に差別が及ぶことを危惧して療養所にとどまり続け、残された家族は進学や就職、結婚といった人生のさまざまな場面で社会からの差別に苦しみ続けました。ハンセン病患者や家族は偏見・差別されてもしかたないという社会構造に関わってきたのは、他ならない私たち一人ひとりです。

「感染症法」に定められていること

「感染症法」(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)より抜粋

(前文)我が国においては、過去にハンセン病、後天性免疫不全症候群等の感染症患者等に対するいわれのない差別や偏見が存在していたという事実を重く受け止め、これを教訓として今後に生かすことが必要である。このような感染症を巡る状況の変化や感染症の患者等が置かれてきた状況を踏まえ、感染症の患者等の人権を尊重しつつ、これらの者に対する良質かつ適切な医療の提供を確保し、感染症に迅速かつ適確に対応することが求められている。
(第3条)国及び地方自治体は、教育活動、広報活動等を通じた感染症に関する正しい知識の普及を図り、患者等の人権を尊重しなければならない。
(第4条)国民は、感染症に関する正しい知識を持ち、その予防に必要な注意を払うよう努めるとともに、感染症の患者等の人権が損なわれることがないようにしなければならない。

ハンセン病と新型コロナウイルス感染症

 現在、「新型コロナウイルス感染症」に関する誹謗中傷などの偏見や差別が全国的に起こっています。ハンセン病と新型コロナウイルス感染症は単純に比較できないものの、感染症に対する誤った知識や見解が偏見や差別につながるということはどちらも共通していると言えます。

 同じ過ちを繰り返さないために、私たち一人ひとりが正しい知識と理解を持ち、偏見や差別をなくしていきましょう。

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